セネカ『人生の短さについて』

手元の岩波文庫では『人生の短さについて』だが最近発行してるのは微妙に改題して『生の短さについて』になってる。「人生」と「生」では後者の方が命全般のスケールのでかい話になるような気がするが内容的には人間の生き方の話に終始してるのでどちらでも大差はないっぽい。
訳注によると原語は「vita」で生活、生、生命、生涯を意味するとのこと。


■人生は短いのか
1.
我々は常に人生の短さをボヤくが、我々は短い生に生まれているのではなく、我々が生を短くしているのである。

2.
人生は使い方を知れば長い。しかし世の人は自分の時間を他人のためにあくせくするか、むやみに財産を求めるか、無計画か、怠惰によって浪費している。

3.
以上のような事態になるのはなぜか、なぜ自分の人生を生きられないのか。
一つには、自分が永久に生きられるかのように「自分のことは引退後にやろう」と思ってるせいである。明日死ぬかも知れないのに。

 

■例
4.
全てを意のままにできたアウグストゥス帝ですら自分のための暇な時間を夢見るほどであった。

5.
キケロも公職に翻弄されて不自由を嘆いていた。

6.
ドルススも自分の政策が成功せず、かといって辞めることもできず、休みがないことを呪ったと言われる。

7.
飲食、酒と性に熱中するのが一番悪い。こうした人たちは銭勘定、他人の機嫌をとったりとられたり、また義務のような飲み会で時間を食いつぶしている。これに比べれば虚しい名誉や不毛な戦争に夢中な連中がまだマシに見える。
こんな生き方をした人間は年老いても、「長く居た」「長く翻弄された」だけで「長く生きた」とは到底言えない。

8.
金はケチる人が自分の時間は他人に気前よく与えてしまうのは不思議だ。時間は最も貴重なものなのにタダ同然でやりとりされている。しかも、自分の時間は与えて減るが相手の時間が増えることはない。

9.
常に不確定な将来のことだけを考えて忙しくしてる連中は生活を築こうとしてかえって生活を破壊している。
手元の確実なものを捨て、未来の不確実なものを得ようとしている。

10.
というわけで多忙な人の人生は極めて短い。

11.
多忙な人間は死ぬ間際になって「今度こそ自分の生活を送りたい」と喚くが、無駄である。
一方でつまらぬ仕事から離れた人の人生は長く、死の間際でも満足して堂々と死に向かうだろう。


■多忙とは
12.
では多忙とはどういう状態か。仕事に追い立てられる人々だけではない。一方で、怠惰な多忙というのもある。見世物や、髪型や、音楽や、つまらないことに熱心な連中がそれである。

13.
さらには将棋、球技に熱中するのも時間の浪費。文学、その他の知識を追求するのも無駄である。

 

■本当に時間を持つ人とは
14.
叡智に専念する者だけが時間を持ち、本当に生きていると言える。哲人の思想に触れる者だけが真に仕事をしていると言える

15.
哲人最高!

16.
一方、哲人の逆を行く連中は本当に惨めである。

17.
なぜならそうした連中は不運なら不運を呪い、幸運ならそれを失うことを恐れる。そうしてる間に時は過ぎていく。しかも望みが叶うことは無い。

18.
というわけで、本当に自分の人生を生きたいなら公職を離れ、大衆から離れること。

19.
世の雑事は(哲学より)大事なことなのか。
多忙はただでさえ惨めだが他人の都合で動く者、愛憎をさえ命令される者は最も惨めだ。

20.
だから、有力者を羨ましがってはいけない。そうした人たちは自分の人生を犠牲にしている。
こうした人は不名誉を重ねて名誉を得るが、結局は墓碑銘のための惨めな努力だと絶望する。さらに自分の死んだ後の葬式の段取りまで決めてるような老人は(何も学んでないので)、早死にした子供のための葬式がふさわしい。

 


○感想
・他人のために自分の時間を差し出すのはいい加減にしとけよ
・娯楽享楽なんかより哲学しろ

途中の「哲人に倣った生き方以外クソ!」みたいなくだりはまさしく傲慢なストア主義って感じでちょっと同意しかねる。ストイックの語源とはいえ徹底しすぎ。こんな「俺ら哲学者はお前ら一般ピーポーとは違う」精神丸出しじゃそりゃ嫌われる。あと将来のために働く人をディスるのも現代の感覚だと違和感しかない。当時は明日をもしれぬ不穏な時代だったのかも知れないが。

仕事しながら死ぬのもダメらしい。職業によっては「理想の死に方」と言われるかも知れないが、カローシが問題になってる現代日本としてはセネカのいうことを聞いといた方が良さそうだ。
哲人のように「今日が最後の一日と心得て生きる」を実践できれば他人に煩わされることもない最高の生き方なのかもしれないが、まぁ凡人には難しい。

それ以外は概ね同意で、他人の様子を伺って生きるのは人生の浪費でしかない。

ローマ人も「義務のような飲み会」に辟易していたかと思えば若干親近感がわく。

あとダメ人間を暇にさせてはいけないという「小人閑居」は真理だと思うが、ダメ人間は忙しくてもダメなんだな。やっぱ。ダメ人間だもの。

 

 

 

 

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

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