B・フランクリン『富に至る道』(自伝付録)

 

アメリカの最高額紙幣の肖像でおなじみベンジャミン・フランクリンは新聞業を営んでいた時に「リチャード・ソーンダーズ(愛称:貧しいリチャード)」というペンネームでカレンダーを発行していたが、カレンダーは本を買わない人にも読まれることに着目し教訓を伝える手段になると考えて余白に古今東西の格言を載せていた。めっちゃ売れたらしい。
※ちなみにこの暦は『プーア・リチャードの暦』というタイトルで日本語訳が売ってる(持ってないけど)。
その格言の中で大部分を構成する蓄財に関する教訓をつなげて一つのエピソードにしたのが『富に至る道』。賢明な老紳士が競売に来た人々を相手に演説し、演説中で格言を引用しまくるという形式。
以下本文に出てくる主な格言
※は個人の感想

 


◼︎はじめに:愚者の税金
人は国から課せられている以上に、怠惰であるために二倍もの、虚栄心を持つために三倍もの、愚かであるために四倍もの税金を自ら背負っている

「天は自ら助くる者を助く」

 

 

◼︎勤勉の徳

「寝たいなら、墓場に入ってからでも少しも遅くはない」
※さっそくだが異論がある。遅くね?十分な睡眠は人生の基礎!

 

「時間の浪費こそ、一番の贅沢」
※皮肉なことに貧乏人にもできる最も簡単な贅沢がこれ。

 

「時間の失せ物は、間違っても見つかることなし」

 

「ものぐさは万事を難しくし、勤勉は万事を容易にす」

 

「怠け者の足ののろさよ、貧乏がすぐに追いつく」

 

「仕事を追い立てよ、仕事に追い立てられるな」
※これは他のなんかでも見かけた格言。全くその通りだと思う。人生最大の敵『やらされ感』を打破するためにも重要な考え方だ。

 

「早寝早起き、健康のもと、財産を殖やし、知恵を増す」
健康や殖財の効果は実感してないが単にいい気分だから早寝早起きはやる価値はある

 

「勤勉なものは願をかけるに及ばず」

※自分の労働に希望があれば宝くじなんか買わないよね。というのにも通じる

 

「勤勉は借金を払い、自暴自棄は借金を殖やす」

 

「勤勉は幸運の母」

 

「勤勉な者には、神、何物をも惜しみ給わず」

 

「今日の一日は明日の二日に値す」

 

「明日なすべき事あらば、今日のうちにせよ」


「怠けているところを自分自身に見つけられるのを恥じよ」

※ここは多分ルカ書12:42〜のくだりに対応。「怠けているのを主人に見られたら恥じ入る」を一歩進めて「自分にも見つかるな」と。

 

「太陽に見下ろされて『恥知らず、ここに横たわる』と言われるな」
※確かに言われたくない。

 

「点滴石を穿つ」

 

「小さな一撃でも、度重なれば、大木をも倒す」

 

「閑暇の生活と怠惰の生活はまったくの別物」

 


◼︎注意深さ

「何度もうつしかえられる木で、
何度も引越しを繰り返す家で、
動かぬ場合ほど栄えたためしは一度もない」

 

「引越し三度は丸焼け同然」
※これはなぜか昔から心に残ってる。引越し代だけじゃなくて地縁とか人間関係の断絶とかの悪影響を説いてるんだろうが、なんにせよあんまり環境を変えたくない不精者にはありがたい格言。


「店を守れ、さすれば店、汝を守らん」
※店や蓄財に限らず「与えれば、与えられる」という世の中の「作用反作用の法則」は本当にあるな

 

「仕事をやりおおせたくば、自ら行け。やりおおせたくなくば、人に行かせよ」
※今風のビジネス書では「大事なことは自分でやれ、どうでもいいことは人に任せろ」とか「自分の苦手なことはそれが得意な人にやらせろ」とか色んな調整が入ってる

 

「注意の不足は、知識の不足にもまして多くの損害を招く」

 

「俗事に関する限り、人が救われるのは、他人を信頼しないことによってであり、神を信仰することによってではない」
※これはちょっとどぎつい書き方だが、要は「人任せにするな」「自分でやれ」さらに言えばば「自分を信頼しろ」ということか

 

「学問は勉強家に、富は用心深い者に(授けられる)」

※怪しげなビジネスにひっかかる人は富も用心深さも縁が無い。二重に御愁傷様

 

「わずかな怠りでも、大きな災いを招きかねない」
※一人の一度のミスでこれまで何十人も関わった何百件もの案件に不審の目が向けられすべてやり直すハメになって大損害になった事例を見たことがある。コツコツ稼いでドカンと損失はあるが逆はない。あればいいのに。

 

「釘が一本抜けて蹄鉄がとれ、蹄鉄がとれて馬が倒れ。馬が倒れて乗っていた者が命を落とした」

風が吹けば桶屋が儲かるのネガティブ版。でも桶屋の方も途中でネコが三味線にされてるからなぁ

 

 

◼︎節約と倹約

「台所が肥えれば、遺言書は痩せる」

 

「稼ぐだけでなく、残すことを考えよ、西インドを手に入れながら、スペインはついに富める国になれずにおわった。入るよりも、出る方が多かったから」

 

「酒に女、賭博にぺてん、財産痩せて、欲だけつのる」

 

「塵も積もれば山となる」

※こいつ格言の中でも最強クラスだろ

 

「わずかな出銭に気をつけよ。小さな漏れ口が大きな船を沈める」

 

「美食家の末は乞食」
※同意する。経験から言えば出費が嵩むという点だけではなく、美食を追求し始めると自制心とか強欲さとかそういう面にも悪影響があると思う。ただ、反美食をアピールするのも悪習慣だが …(自戒)

 

「買う必要もないものを買ったら最後、やがてそのうちに、なくてはならぬものまで売り払わねばならぬことになる」

 

「安いものには、へたに手を出すな」
※品質に問題があるという見方では「安物買いの銭失い」とはよく言われるが、この格言だともっと他の意味も考えられる。罠だったり、不用品だったり。個人的には貧乏人向けビジネスのオーラに触れたくないし、そういう客層にもなるべくなりたくない。

 

「得な買い物をして、身上をつぶしたものが多い」

 

「金を出して後悔を買う愚か者」
※辛辣だが印象に残る良い格言。ストレスがたまるとかして衝動買いをしたくなった時に思い出したい。

 

「賢いものは他人の災いで悟り、愚かな者は自らの災いによっても目がさめぬ」
ビスマルクは「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」と言ったがこの格言の場合目がさめもしないんじゃホントどうしようもないやつだな。

 

「他人の危険によって思慮深くなる者は幸いなり」

 


◼︎虚栄心と借金

 

「本当の貧乏人一人に対して贅沢な貧乏人が百人」
※”贅沢な貧乏人”とは上手い言い方だ。「金がない」とか言いつつ最新のスマホ持ってたりするんだよな

 

「自分の足で立っている農夫のほうが、跪いている紳士よりも背が高い」

 

「井戸枯れて水の貴きを知る」

 

「金を借りに行く者は悲しみを借りに行く」
※老紳士(=フランクリン)は「こうした連中に金を貸す者は返してもらいに行ったら、やはり悲しい目にあう」とつけたしている。やっぱ金の貸し借りは生半可な気持ちじゃやったらダメ

 

「虚栄心は、貧乏と同じく、乞食のごとく求めてやまず、しかも厚かましさの点では、貧乏の遥か上をいく」

 

「貧しい人が金持ちの真似をするのは愚の骨頂」
※ほんとに。

 

「借金は嘘の始まり」
※借金返せない→その場しのぎの嘘をつく→嘘を言うことに慣れる→嘘つき完成…というプロセスらしいが未だに腑に落ちないというか…。まぁそんなもんなんだろう。

 

「貸主は借主よりも物覚えがいい」
※この理論を応用して画期的な記憶術をあみ出せそうな気がする

 

 


◼︎備え

「儲けはいっときのことで定めないものであるのに、出費は生涯つきまとう」
※これほんとに不思議だ。儲けに生涯つきまとってほしい

 

「かまど二つを築くは易く、かまど一つに火を絶やさぬは難し」
※慎重に検討するイニシャルコストに対して軽視しがちなランニングコストについての教訓でもある。

 

「得られるものは得よ、得たものは手放すな。これぞ鉛を黄金に変え得る石(賢者の石)」

※これなんか深いこと言ってる気がするけどまだよくわからない

 

 

◼︎最後に

「忠告は与えることはできても、処世の術は与えることはできない」

 

「助言を容れざる者は度し難し」

 

「道理に耳を傾けざる者は、かならず手きびしき仕返しをうけん」

 


以上で老紳士による格言をふんだんに引用した説話は終わりだが、それを聞いて感動していた聴衆は競売が始まるやいなや老人の話なんか全くなかったかのように無駄遣いを再開し始めたというオチがある。

バラバラの格言を一つの話にしたものをまたバラバラにするのもどうかと思うが…この読書ブログは「流れの把握と要約の練習」(とタイピングの練習)が主目的なのでしょうがない。

それにしても同じことを別の視点で語ってる格言を大量に浴びるとその言わんとすることが立体的に見えてくるような気がするので、あながち無駄ではないと思う。

本文にはないけど「金持ちとは、収入>支出である。」という要約が真理な気がする。どこで見たんだっけかなぁ。

 

それはそうと『フランクリン自伝』は純粋にサクセスストーリーとして読んでも面白い。それで金持ちになる秘訣まで教えてもらえるんだから読むしかない。

でもフランクリン自身の成功はそれこそ「格言を載せたカレンダーがめっちゃ売れた」に代表されるようにあんまり節約を連想させないな…。しかし節約、勤勉その他の徳が土台にあったからこそ色んな発明をしたり名案を思いついたりできたのは間違いない。

 

 

フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)