ヴォーヴナルグ『小さな人物は小さな職務につけること』(反省と格言六九五)

 

 

ヴォーヴナルグラ・ロシュフーコーラ・ブリュイエールにならぶフランスモラリストの一人。パスカルにも影響を受け、「本人が作品を完成させたのではなく、作品が本人を完成させた」という点でモンテーニュに共通する部分もあるとか。というかモンテーニュ自身がモラリストの走りだから似てるのは当たり前ではある。

性悪説的な辛辣な目で人間を見るモラリストの中でも性善説に基づいてるらしく、切れ味は物足りないが、よく言えばマイルドで希望を感じさせる。実際本人はかなりのお人好しで極貧の中でも困ってる人に施しをすることがやめられなかったとのこと。で、32歳で若死に。まさしく不遇なる一天才。

ところでヴォーヴナルグのようにプルターク→ストア主義と通過するのはモラリストの定番コースらしい。俺自身全く同じ嗜好を持ってるのでこの系譜にあやかりたい。

 

以下、『反省と格言』の一節。

 


小さな人物は小さな職務につけなければならない。彼らはそこに天賦を傾け自負を持って勉励する。自分の低い職務を軽蔑するどころか、彼らはそれを光栄とする。馬の寝わらを分配させたり、ネクタイがゆがんでいると言って兵隊を営倉にぶちこんだり、教練の時に鞭をふりまわしたり、することの好きな連中がいるものだ。彼らは横柄で自惚れが強く高慢ちきでいて、己の部署に満足しきっている。もっと真価のある男なら、彼等が大よろこびですることに屈辱を感ずるだろう。そして恐らくその義務を怠るであろう。
岩波文庫『不遇なる一天才の手記』273ページ


○感想

職業差別に繋がりそうな話であるがこれはヴォーヴナルグ自身が兵隊時代を回想しながら書いてるようで、下位の者には偉そうな軍曹やら隊長を念頭に置いてるようだ。

現代で言えば、校則をたてに権力者ぶる教師とか、ちょっとしたマナー違反で鬼の首を取ったように騒ぐ頭のおかしい人なんかが当てはまるか。その時はただ不快な存在でも後々哀れみの感情とともに回想されて、結果的に反面教師になるところまで考えれば、不快な連中が不快なことをするのは適材適所で社会の利益になると言えなくも無い。愉快な人に不快な役割を担わせるのは社会の損だ。
ヴォーヴナルグも「そういう人間をそういう仕事に就けるべし」と言ってるからにはこういうメリットがあってのことだろう。

・つまらない人間はつまらないことで威張りちらす
・お山の大将はお山に居座らせておけ、出てこられると迷惑だ

ところで、よく言われるような『偉大な人物はつまらぬことも疎かにしない』という考え方と矛盾しないかというと、感情がポイントになる。つまらない人間はつまらないことを大よろこびでする、と。
偉大な人物ならつまらない仕事に対して内心思うところがありながらもとりあえずは黙って職務を遂行しながらステップアップの機会を待つという感じか。

今の仕事をつまらない、屈辱だと感じているならある意味朗報かも知れない。

 

 

不遇なる一天才の手記 (岩波文庫)

不遇なる一天才の手記 (岩波文庫)