カリエール『君主とその大臣たちにうまく取り入る方法』(外交談判法第十五章)

18世紀フランスの外交官が書いた外交官心得の一章

ここでいう外交官は相手国の宮廷に常駐して持続的に交渉する役割(ちなみにカリエール自身はそういう仕事ではなく、交渉のたび相手方に赴くタイプの外交官だった模様)。

今そんな仕事があるかは知らないが、毎日のように顔を合わせて粘り強く交渉し続ける必要があるお偉いさんがいるなら役に立つかも。

以下本文の内容。

 


■交渉の際は

君主の地位にいる人間は自惚れや強い権力を持っているので普通の人間とはものの見方、考え方が違う。交渉の際は相手の立場に立ち相手を理解することが大いに役立つ。

 


最も良い説得の方法の一つは、相手に気に入られることである。そのためには相手を気持ちよくさせ、相手の気にくわない話も出来るだけやわらかく聞こえるように話すべし。

 


■褒める

・見え透いたお世辞、つまり相手が持ってない美点を持ってると言うことはNG

・相手が持ってる美点を特に褒めそやすべし

・本当に褒める値打ちのあることだけを褒めるべし

・彼らの持ち物を褒めてはいけない。彼らの能力を褒めるべし

・相手が若かったり、貴婦人であったりした場合は外見を褒めても良い。しかし女性の機嫌をとるときは一層の慎重さが必要となる

 


■相手に華を持たせる。

勝負事でわざと負けるのも有効。

賭け事でわざと負けて大きな利益を与えてあげたことを相手に悟らせ、感心されて出世につながった僧もいる。


■一緒に喜ぶ

相手方の宮廷にとって良いニュースが入ったときはともに喜び、大臣やその家族が得た個人的利益についてもともに喜ぶべし。

また相手君主の人柄や政治手腕についても常に褒めるべきである。


中には長年の任期で赴任先の君主を貶したり敵を褒めたりするような者がいるが、絶対NG。こうした者は相手方が自分を買収に動くだろうと期待しているのだろうが絶対に成功しない。


■最後に

人柄や礼儀正しさ、魅力的な振る舞いでも便宜を得ることが出来る。またいかに堕落した邪な人間であろうと正しい道理に心を動かされない者はほとんどいない。

相手が聞く耳持たずでも、努力をやめてはいけない。彼らの反感を好意に変えることは不可能ではないので諦めてはならない。

逆に相手がこちらに好意を持っていてもそれがいつまでも続くと思ってはいけない。

 

○感想

注意点としては、これらは処世術では無く交渉術である点。

自分の身一つのための媚びへつらいではなく、あくまでも自分の仕える主君や国家のため相手国の君主を動かすための手段という位置付け。

カリエール自身、教養と誠実さを備えた立派な人物だったらしいがその人物が「人に取り入る方法」と題してるからには単なる下心ではないことは確か。

 


それと上記のテクは生まれながらの貴人に対するノウハウで、成り上がりとか叩き上げ向けではないという感じもする。

つまり庶民階級の金持ち・有力者相手に通用するかどうかはわからない。

 


それとカリエールは他の章でも「嘘は絶対NG」と一貫して主張している。嘘自体が卑しいものであるというのも理由の一つだが、もし卑しいものでないとしても「正直者という評判」が何より利益をもたらすという実利的な面が第一だとか。

 


この手の人間心理についてもっと詳しく知りたければフランスモラリストラ・ロシュフコーラ・ブリュイエールが面白い。

 

 

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)