マルクス・アウレリウス『最も良い復讐の方法』

 

『自省録』第六章七節

 

 

もっともよい復讐の方法は自分まで同じような行為をしないことだ。
岩波文庫『自省録』82ページ

 

 


○感想
幸せになるのが最高の復讐とか言うが、それよりはこっちの方がしっくりくる。しかも簡単。ストア主義的な超然と見下ろす態度の有効活用。

「やり返すな」は古今東西で言われてるが、「出された食事に手を出さなければ主人の元に返っていくのと同様、吐き出された悪口に反応しなければそれは吐き出した主に返っていく」というブッダとアッコーサカの有名な逸話にも通じる(しかし出典見当たらず。パーリ仏典?)。

この短い格言ではブッダの逸話から一歩進んで、その場でやり返すことを制するのみならずその後の生活にまで及ぶ規律になっている。「人のふり見て我がふり直せ」「他山の石」の意も内包してる感じ。「俺はこいつとは違う」というストア的傲慢さもやはり感じる。

キリスト教では有名な「右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさい」をはじめ「重荷を1km運べと言われたら2km運んであげなさい」「敵を愛せ」など積極的に試練に身を晒し忍耐することを推奨してる。当然「自分で復讐する・どうやって復讐するか」という考えは無い。もし相手が復讐されるに値する人間なら、それは神にお任せ。なんといっても旧約の神は間違いなく復讐の神。

ストア的超然とした態度を堅持するのは精神的にタフじゃ無いと難しいがキリスト教的忍従の態度はむしろ弱い人間に向いてる。そして人間のほとんどが弱いので、キリスト教の方が世界宗教になったのも当然か。

悪意に対する対処法で仏教、キリスト教、ストア主義で結構くっきり性格が出てるな。
みんな違ってみんな良い。全部同時に試しても行動の上では矛盾しないしいつでもどれでも好きなのを試せば良い。

 

 

 

自省録 (岩波文庫)

自省録 (岩波文庫)