プルタルコス『いかに敵から利益を得るか』

読書メモ

エピソードや話題の順番はいじってある

以下の他にも興味深くて面白い逸話が多数

 

◼︎導入
・昔は敵(動物や自然など)からの攻撃をやり過ごせればそれで十分だった。しかし人々はやがてそれらを利用する術を知った。敵がいてこそ得られる利益にはどんなものがあるか。どうすればそんな利益を得られるか。
・海の水は飲めないが魚を養う。火に触れば焼かれるが利用するすべを知っている者にはあらゆる技術を生む道具になる。
・病気を休息の時だと心得た人間もいる、苦労のおかげで鍛えられたと言う人もいる。
ストア派のゼノンは自分の船が沈んだ時「私に否応無しに襤褸を纏わせるとは、運よ、よくぞやってくれた」と言った。
・同じように、敵を見てもどこかで利用できないか、こちらの役に立てられないか観察しよう。

 

◼︎敵から見られてることを利用して自分を律する
プルターク曰く「第一に、こちらが注意深くしてさえいれば、向こうの敵意が酷ければ酷いほど、こっちの受ける利益は大きいのではないかと思う」
→まず、酷い敵意とはどんなものか
常にこちらの動向を虎視眈々と伺っており、過ちや失敗があればただちに飛びついてくる
→それが我々の利益になるのか?
・敵の監視を意識することで否応無しに健全な生活になっていく
また、競争相手がいてこそ細部にも注意を行き渡らせるようになる

カルタゴギリシャを打ち負かして安泰を手にしたと思っているローマ人に対してスキピオ・ナシカは言った「今は危ない、我々は恐れるべき相手も恥じ入るべき相手も無くしてしまった」

・殺そうと襲いかかってきた敵がイアソンの腫れ物を切った、そのおかげでイアソンは腫れ物の苦痛から解放された。

・敵とは授業料を払わずに済む教師である
シラクサの僭主ヒエロンは敵から口臭を指摘された。それを妻に「なぜそうだと教えてくれなかったのか」と聞いたところ妻は「男はみんなそう言うものだと思っていました」と答えた。このように、自分の欠点は身内よりはかえって敵から知らされるもの。

 

◼︎敵と同じレベルまで下りてはならない
・敵を困らせたかったら悪口を言わず、真実だけを述べ、思いやりと正義を持った立派な人間になること。

・「人は自分が言われて嫌なことを、人に言う」つまりそうした悪口を言うことは、
①自分がそれを言われたら図星を突かれることを白状したも同然
②人に悪口を言うことで品位を落とす
の二重の愚行を犯すことになる
『汝自身を知れ』とは人に悪口を言おうとしてる人にも特に当てはまる

・敵の罵詈雑言の中にあっては沈黙を保つのが最も威厳と品位がある。
ただし、相当な修行を必要とする。
ソクラテスが悪妻に耐えることで忍耐を鍛えたのは有名。しかしどうせなら身内より敵からの攻撃に耐える修行の方が良い

 

◼︎敵を褒めることで自分の評判を上げ、つまらぬプライドやエゴも縮小できる。
・敵ながらあっぱれ、と言う場合には賞賛を惜しんではならない。なぜなら
①敵を賞賛することで自分自身の賞賛を得られるから
②後日その敵を告発するようなことになっても信頼されるから
とはいえ、敵の繁栄に対して不平を言わないのが習慣になり、敵のみならず友人や身内の成功に対しても嫉妬も憎悪も起こらぬようになった人間が一番立派であり、得るところが大きい
・敵に対しても公正であると言う習慣は偉大で立派である

 

◼︎敵がいた方が都合の良い場合。あえて敵を残しておく。
・キオス島の内乱で勝った側に属していたデモスという政治家は敵を全員追放せず何人か残そうと仲間に言った。その理由は「敵がすっかり追放されてしまって、味方同士が争いを起こさぬように」
さらに注釈によると「例えば何か提案するときに提案者一同皆同意見というのは怪しまれるから、反対意見の者も何人かいた方がよかろう」と付け加えたとされる。

 

◼︎まとめ
・前提として、敵をも利益に変えようとする前向きな思考を持つことは重要。まずはじっくりと観察。
・敵を無料で使えるトレーナーと捉え、自分の行動を律すること。
・敵を負の標準として、品性において常に敵を上回るように気を配ること。
・敵に対する態度次第では自分の評判を高めるし、後々優位に立てる
・敵がいた方が集団の団結が守られる

 

◼︎その他関係ありそうな考え方
・ポジティブ思考
・相手と同じ土俵に降りてはいけない
・他山の石
・人のふり見て我がふり直せ

 

饒舌について―他五篇 (岩波文庫 青 664-1)

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