カール・ヒルティ『時間のつくり方』(幸福論第一部)

 

 

■はじめに。本当に時間は無いのか

「時間がない」は便利な言い訳であるだけでなく、実際尤もらしく見える言い分である。
現代では時間に追われて、落ち着きなく働き、しかも大した成果を出せない人がいる。
その一方で多く休まず、しかし焦りもせず多くの仕事を成し遂げた偉人は多い。
人々はなぜ時間がなくなるのか、なぜ自分が忙しいのかわかってない。


■時間をつくるための9つの例

まずあくまでも自由人として生活することを決心し、仕事や享楽の奴隷になってはならない。

①規則正しく働く

規則正しい労働こそ精神と肉体の健康、また美をも保つ方法である。
怠惰こそ人を疲れさせ、弱らせる。しかし当然働き過ぎも良くない。

②職業を持つ

規則正しい仕事を行うには職業を持つのが最も容易である。
職業は義務と秩序を生じさせ、やろうかやるまいか迷う余地のない任務があり、明日のことを心配するヒマもなくしてくれる。
※そういや職業も一つの発明かもなあ。このくだりは働かなくても食っていける人向けか。

③十分な休息をとる

人によっては切れ目のない働き方が向いてるかもしれないが、十分な休憩を挟まなければ本当の精神的な仕事を仕上げることはできない。
カーネギーの『道は開ける』でも休息の効用を説いてたな。向こうは「疲労と悩みの関係」についての観点から。

④「気乗り」を待たないこと

仕事をとにかくやり始めれば気乗りは自然に湧いてくる。とにかく積極的に動き始めれば倦怠は消える。

⑤小さな時間の断片を利用する

人は、邪魔されないまとまった時間が欲しいと思うから時間がない。
時間の断片を活用しようと心がけること、「今日は時間がないから何も始められない」という考えを取り除くことがその人の業績の半分を形作る。
ヒルティは「小さな時間の断片」と呼んでいるが要はスキマ時間

⑥仕事の対象を変える

仕事を変化させることはほとんど休憩と同じ効果がある。この方法に熟達すれば一日中なんらかの仕事を続けることができる。
また(大きな)仕事を一つ一つ順番に仕上げていこうとするのも良くないと言える。芸術家が描きかけの絵を並べて気分の赴くままに着手するように、いろんな計画を身の回りにおいて、その場の気分のままにあるいはこれに、あるいはあれに、と向かうのは正しいやり方である。

一つの仕事にどうしても気が向かなくても他の仕事があるなら常になんらかの仕事をし続けることができる。
※人によっては異論が出るかもしれない。

⑦手早く行う

手早く仕上げられた仕事が最も良く、最も効果的で、しかも時間の節約になる。
一番良いものというのは大抵単純で、余計なことを付け加える必要はない。何か成し遂げたことを人に見せるためにつまらぬことまでこだわろうとすると終わるということがなくなる。

※現代の研究ではチェス棋士が即断した場合と熟考した場合とでその一手はほとんど変わらないという結果が出ているので、仕事を決断の連続ととらえるとヒルティの言うことにも信憑性がある。何よりヒルティ自身が猛烈な職務をこなした「仕事の人」なのでヒルティがそうだと言うならそうなんだろう。
それと芸や技の世界ではとにかく「慣れ」が一番パフォーマンスを高くするというのも知られている。これもこの項目に通じる話。

⑧「仮にやる」「次回ちゃんとやる」はNG。やるならその時ちゃんとやる

人はよく「この問題は他の機会に述べる」とか言うがそれが実行された試しはない。仮のまま放って置かれてるなら、それは時間を無駄にしたと言うことだ。

※⑥の内容と矛盾するようだが、向こうは進捗は中途半端でも質は十分というのが前提で、こちらは質そのものが中途半端という話だろう。

⑨秩序を保つこと、原典にあたること。

秩序を保てば探し物で時間を浪費し、仕事へのやる気を失うこともなくなる。
また、原典にあたることはそれについて書かれた手引き本より正確に内容がわかり、しかもよりわかりやすい場合が多い。したがって大きな時間の節約になる。

※秩序を保つとは5Sのことだな。同意。しかし「原典にあたれ」についてはインテリのヒルティだから出来る芸当でもある。個人的には「入門書で概要を掴んでから原典にあたる」が効率良いと思う。


■時間の無駄を知る

常日頃行われている習慣の多くが無駄な時間に属する。

・飲酒

・新聞

・祝祭

・芸術の、享受のためだけの享受

・無意味な社交

・演劇


◼︎最後にニ点。

「私事を持たないということは特に努力に値する目的である」
私的な関心とそれに使う時間を減らして広い思想に生きられれば気持ちがいい。

「君の学んだこと、君に託されたものをどこまでも守りなさい。」
このことのためには人は十分な時間を持つ

◼︎終わりに。時間と幸福の関係

以上が時間の節約法だが、「時間が余るほどない」というのは幸福の最も重要な要素である。なぜなら絶えず続けられる仕事とそれに対する祝福が人間の幸福の最大部分だからである。
幸福を目指すなら何よりもまず「正しい仕事」を持たねばならない。
失敗した生涯は大抵、仕事を持たないか、仕事が少なすぎるか、正しい仕事を持たないことに起因する。

「仕事」と「愛」はどんな不幸の中でも慰めになる。決して投げ捨ててはいけない
人は仕事のない休息には耐えることができない。

余計なことや無益なことには時間を持たないが、正しいことや真実のことのためには常に十分な時間があるのが本当の仕事である。
このような仕事は永遠の命が考えられるような世界観の上で最もよく成長する。さらにこの価値観の上では自分の使命を果たす勇気と忍耐が生まれ、永遠の中では価値を失うようなものを静かに拒否することができるようになる。

 

○感想
時間術の古典的なライフハックかと思いきや、最後の最後で濃厚なキリスト教思想が出て来て面食らう。しかし心に引っかかるものがあるのも確か。
あまり宗教臭を出さないように解釈すると、永遠をモノサシに価値を測れば本当に大事なもの、やるべきことが見えてくる。そうすると自然と無駄がなくなり、時間を有効に使えるようになるってことか。

 

 

 

幸福論 (第1部) (岩波文庫)

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